講演者インタビュー



「自分の見つけたいものを見つけるために、研究を続ける」
第二の地球探しに取り組む鵜山さん

2019/10/06





鵜山 太智 (Taichi Uyama)

California Institute of Technology/Infrared Processing and Analysis Center(Caltech/IPAC), NASA Exoplanet Science Institute (NExScl)

略歴:2014年3月に東京大学理学部天文学科を卒業。2019年3月に同大学理学系研究科天文学専攻を修了。日本学術振興会特別研究員DC2(2017年4月-2019年3月)、ハワイ大学ヒロ校訪問研究員(同振興会海外挑戦プログラム:2018年4月-7月)。現在は同振興会海外特別研究員として、カリフォルニア工科大学・NASAの研究室にて系外惑星に関連した観測的研究を進めている(当時)。



——宇宙に興味を持ち始めたのはいつですか?また、なにか理由はありますか?

鵜山(敬称略):元々実家が奈良の片田舎にありまして、小さい頃、家のまわりには田んぼばかりで街灯もないようなところだったので、夜には星明かりがよく見えていたんです。家も古くて、お風呂に入ろうとしたら家の外に出ないといけないんですが、そのときに外で見える星がとてもきれいで。それが興味を持ったきっかけです。ずっと空を見ていて、SFみたいに宇宙にブラックホールとかあったら面白いなあとか小学生の頃から思っていたんですけど、東大に天文学専攻があることを高3くらいで知って、実際にその研究ができるんだと分かり、そこから本気で進学を考え始めました。それまでは適当にぼーっと空を見上げるだけで満足していたんですが、もっと深く知りたくなったんです。研究でたくさん天体観測に行けるんだろうなという期待もありましたね。もっと良い観測スポットで、この宇宙を自分の目で見てみたいという気持ちがありました。東大に入ったら天文学をそのまま学べるわけではなくて、2年間一般教養を学んでから専攻を選びます。なので、はじめから研究テーマがしっかり決まっていたわけではなく、入学してから考えようと思っていました。研究テーマを何にするかは、自分の興味次第です。僕の場合は、「第二の地球探し」。新しいものを見つけたい、誰も知らないものを見つけたい、というモチベーションが湧いてきたんです。そして、宇宙分野の中でも歴史が一番浅くて、見つかっているものが少なかったのが現在の研究領域だったんです。小さいときにイメージしていたやりたいことに近いことをやれていますね。


——留学しようと思った理由は何かあるのでしょうか?その中でも、Caltechを選んだ理由はありますか?

鵜山:世界中にある望遠鏡の中で、とても良い観測スポットは数が限られているんです。ハワイは良いスポットのうちの一つなのですが、日本のオペレーションする望遠鏡もハワイにあったので、必然的にハワイに行くしかないという気持ちが元々ありました(※過去に鵜山さんはハワイ大学ヒロ校にも研究員として滞在)。海外は旅行くらいしかしたことがなかったので、当初は色々と戸惑っていましたが、必要があるから何でもやらざるを得ないという感覚です。でも、宇宙の研究にここまで英語のコミュニケーションが必要だというのは想像していませんでした(笑)。他の学問の状況はあまり知りませんが、天文学に限っては、日本国内だけで完結できる研究はほとんどないんです。他の国の人と(オンラインで)やりとりするのも英語ですし、海外に観測に行くと英語でしゃべることになりますし。
 また、「世界の望遠鏡でできること」を増やしたいというのも僕の思いでして。ただ、外国の所有する望遠鏡は利用するのに倍率が高かったり、他国による利用が制限されたりしているものも多いので、アメリカからアクセスしやすい望遠鏡を使ってみたいと思っていました。特に、(地球にある望遠鏡ではなく)宇宙に打ち上げる望遠鏡のひとつである James Webb Space Telescope(JWST)はNASAが製作しており、今後の研究で使いたいと思っています。宇宙の方が、地球上より観測条件が良いんです。ただ、同じ規模の望遠鏡を作りたくても、日本では予算的にも技術的にも足りなくて。望遠鏡製作プロジェクトをひとつ立ち上げるのに数百億、それを宇宙に打ち上げるには数千億円かかるんですよね。これは(アメリカのように)多額の予算と寄付がないと厳しいです。CaltechではそのJWSTのエキスパートや、JWSTに関連する内容の研究を進めている人が多く、コラボレーションすることで自分の研究を進展させやすくなると思ったことも理由です。ちなみに、JWSTの打ち上げはもともと今年行われる予定とされていて、自分もそのつもりで来たんですが、まだ打ち上げられていません(笑)。でも事前準備から関わることができたので良いこともあるかなとポジティブに考えています。日本人で今のタイミングで関わろうとしているのは僕くらいで、(今後も含め)事前の観測準備から関わる数少ない日本人の一人だと思います。


——留学するにあたって大変だったことはありますか?また、それはどう克服されましたか?

鵜山:英語を勉強し始めてからは東京で外国人と話すことも多かったので、そこまでないですね。大学内や共同研究相手にも外国人はちょこちょこいたので、東京でそれなりに経験値を積んで準備できていたんだと思います。海外の望遠鏡まで観測に行けば、オペレーターが全員外国人なので、そういう観点でも経験値はありました。他方、研究分野によっては日本だけで研究が完結できるものもあると思うんですよね。そういう環境にいると、留学でカルチャーショックを受けることもあるかもしれませんね。
 研究室での過ごし方については、堂々と休める点は日本とは違いますかね。まあ日本で過ごした研究室も、みんな出張などであまり部屋にいなかったり、休暇も自由にとれたりしていたので、そこまで日本の研究室と今とで環境に変わりはないですが。こちらの研究室でも、各々が自分の時間を持っていると感じます。その方が自分のやりたいことをやるためにも都合がいいのでありがたいですね。ただ、議論のためのデータがあっても議論できる相手が研究室にいないということもありますが。ボスとはほとんど顔を合わせませんが、そもそも我々はボスに雇われているわけではないので、ボスも「各々勝手にやってくれていい」「好きな働き方でいい」、と考えているようです。客員研究員として在籍すると、研究室によってはお客さん扱いされてしまうとは聞いていましたが、研究室メンバーと関われているだけラッキーかなと思います。


——Caltechでの研究を終えられたら、将来はどのように活動されたいですか?

鵜山:特別研究員として2年間Caltechにいることは決まっていますが、その後はまだ決まっていません。天文学者は、次の研究室を探すときに同時に10ヶ所、20ヶ所と応募するのがザラです。研究そのものとは直接的には関係ない作業なので、そういう活動にあまり時間を取られたくはないですが。次の行き先としては、ヨーロッパは性に合わないと感じたので選ばないですね(笑)。以前に研究会で行ったときに、食事の味付けが口に合わなかったんです(笑)。日本食とか日本のものがどれくらい手に入るかも気になりますね。日本のものが手に入りやすいのはやっぱりアメリカとかでしょうか。あとはもちろん日本と、他には台湾にも似たようなことをやっている研究室がありますね。
 研究者は、教授クラスにならないと長い間同じポジションにいられるということはあまりなくて、長期で入れるポジションに運良く入れない限りはいろんな研究室を転々とし続けるんです。短期間で目先の研究結果を出すことにあたふたしたくはないので、将来的には腰を据えて研究できるようになりたいと思っています。一般的には、論文をどれだけ書いたか、学会で発表したか、という点が研究者を評価する軸になっているので、目の前のこともやらなくてはいけないんですけどね。もちろん、その中からすごい発見がある可能性もありますし。研究は、見つけたいものがまだ見つかっていないので、続けていきます。私みたいに、「見たいものを見るために」がモチベーションという天文学者は結構いると思います。たとえば、通常、装置のデザインや仕様設計までは天文学関係者が行い、鏡やフレームの製作自体は外注するのですが、装置製作に興味を持つ研究者も天文学分野にはいます。その人たちは、自分の観測したいものを観測するために新しく装置を作る、というモチベーションがあるのだと思います。ただ、天文学もエンジニアリングも両方勉強している人は少なくて、特にエンジニアリングから望遠鏡製作サイドに回るというキャリアは日本ではあまりないんですよね。海外ではよく聞く話なので、そういうキャリアの人が増えてもいいと思うんですけどね。


——留学したい方へ、具体的にアドバイスはありますか?

鵜山:留学とは少し形態が異なりますが、研究で海外に行くのがベストだと思ったら行くしかないと思うんです。英語は、行ってしまえば強制的に使う生活になるので、なんとかなります(笑)。最初は武者修行感がすごいですけど、英語教室に通わないで英語ができるようになれる、くらいに思っておけばいいと思います(笑)。自分も、最初は周りの人が何を言っているのか本当にわからなくて尻込みしていましたけど、気づけば慣れましたね。あとは、一般的に、どこに行っても言えることだと思いますが、英語が喋れないことを恥ずかしがらなくていいです。ネイティブの人はきちんと聞こうとしてくれるので、その辺は優しいですね。海外は、短期出張とかでも経験を積めば気軽に行けるようになります。最初のハードルだけ超えてしまえばあとはすごく楽です。
 それと、宇宙を研究するならアメリカは楽しいですよ。予算が潤沢なので(笑)。元々いた東大の研究室も科研費をそれなりに潤沢にとれていましたが、アメリカは予算の総額が違います。また、アメリカは失敗を容認してくれるところでもあります。研究で少々失敗しても、そこから学んだことを生かして次もやろう、となります。一方で、日本はリスク回避を徹底しなくてはなりません。研究費の考え方については、日本の政府や議員に直接陳情するという選択肢もあるとは思いますが、正直、自分の研究を犠牲にしてまで議員にかけあったりする人は少ないんじゃないかと思います。ノーベル賞を獲った人が言ったってだめな世界なので。これについては、自分の中でこれ以上解はないです。
 海外に出てみて一度キャリアを考えてみよう、というのはいいと思います。日本にいると、一回乗ったレールには乗り続けなくてはいけないという風潮がありますが、そうでない文化をもっと取り入れたらいいんじゃないかとは思っています。



<あとがき> 「探究心の塊」———鵜山さんを表すのにぴったりな言葉は、これだと思いました。子どものころからの関心を追い求め続ける鵜山さんは、根っからの研究者なんだなあ、とも。講演で見せてくれた鵜山さんご撮影の星たちの写真は、とても夢を感じさせてくれるものでした。遠くない将来、宇宙のどこかに「第二の地球」を見つけてくれることを期待しています!
(文責:吉野彩 @yoshinoayap
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