講演者インタビュー



<特別インタビュー>
SCJSF北郷会長

2019/9/23




今回は特別インタビューとして、SCJSFの会長を務める北郷さんにお話を伺いました。発足当時からこのコミュニティの運営側として活躍されている北郷さん。研究者支援のご活動や教育への想いなど、様々なお話を伺いました。


[写真右から、北郷会長、吉野(インタビュアー)]



北郷 明成(Akishige Hokugo)

Department of Surgery, David Geffen School of Medicine at UCLA

略歴:大阪歯科大学歯学部卒業後、口腔外科学を専攻(日本口腔外科学会認定医)。京都大学再生医科学研究所田畑研にて再生医工学の研究に従事。日本学術振興会特別研究員を経て、UCLA歯学部 Weintraub Center Nishimura Labにて主に顎骨壊死と創傷治癒に関する研究に従事。その後、脂肪由来幹細胞を世界で初めて同定したUCLA形成外科Regenerative Bioengineering and Repair (REBAR) Labにてポスドクを経て、Principal Investigator (PI)/ Facultyとして独立。現在はResearch Directorとして様々な組織の再生医療研究を遂行し教育を行っている。また研究の傍ら日米における医科歯科教育、レジデント教育、および博士課程教育に関する調査を行っている。さらに、南カリフォルニアの日本人研究者コミュニティー(SCJSF)の会長、また海外日本人研究者ネットワーク(UJA)の世話人として社会活動も行っている。



——まず、SCJSFの取組を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

北郷(敬称略):2009年に、現在東大にいる合田さんを筆頭に、ネットワーキングできる場を提供しようという理念で会が立ち上がり、その直後に私も運営に参加しました。南カリフォルニアには研究者も留学生も多いので、日本人の横のつながりを作って情報交換ができる場を提供するのが発足理念です。ネットワーキングできる場の提供は、今でもSCJSFの最大の目的であり、その目的のもとセミナーや懇親会などを行っています。また、我々は研究者の集まりなので、自分の分野以外の知識を得ることで、自分の研究に関するひらめきや発見も生まれるチャンスがあると思っています。実際、このコミュニティでの出会いがきっかけで共同研究を始めた研究者もいます。場を活用してくれて、とても嬉しいですね。また、ここで出会って結婚したカップルも数組誕生しています(笑)。このように、プロフェッショナルにもパーソナルにもネットワーキングの場を活用してもらえていると感じています。最初は小規模でしたが、現在ではコミュニティのメーリングリスト登録者数が約550人となるまで拡大しました。すでに日本に帰国していても登録解除していない方がほとんどで、帰国後もこのコミュニティの繋がりはどこかで生きるのかなと思っています。


——約10年も続いているのですね!10年間で、変わったなと思うことはありますか?

北郷:昔は、この会の参加者はポスドクがメインだったのですが、今は学部生や博士課程の学生などの若い方が増えたと個人的に思います。若いうちから海外に行こうという日本政府の政策の影響もあるのかなと思います。しかもネットワーキングの場に出向いて自分の研究以外のことを勉強しようとするのは良いことですよね。


——ボランティアで運営を続けるのは大変だと思うんですが・・・

北郷:(食い気味に)大変ですよ(笑)


——(笑)それでも活動を続けるモチベーションって、何なんでしょうか?

北郷:毎回参加してくれる人がいたり、参加した人から良い評判をいただいたりするのが嬉しいからですね。運営自体は多くのスタッフが助けてくれるので困ってはいないのですが、やっぱりリーダーは南カリフォルニアに長い間滞在する人じゃないと活動が途切れてしまうので、長期間活動にコミットしてくれそうな自分の後継者を見つけて育てることが課題です。海外各都市にある日本人研究者コミュニティをつなぐUnited Japanese researchers Around the world(UJA) の運営にも携わっていますが、どの都市の日本人研究者コミュニティのトップもこの課題に直面しているようです。実は今までにも何度かSCJSF会長職を他の人にお願いしようとしたことがあるのですが、まず承諾してくれる人がなかなかおらず、仮に承諾してくれても結局その方がLAを離れることになったりして、うまくいきませんでした。時代に合わせて活動方法は変えてもらってもいいと思うのですが、団体の理念はしっかり引き継いでほしいと思っているので、それを理解してくれる後継者の方を探しているところです。


——UJAでは、どのような活動をされているのですか?

北郷:UJAは、1)海外留学の情報提供、2)日本人研究者の海外でのキャリアデベロップメント、3)科学技術行政への提言、の3本柱の理念に基づき活動しています。HPを通じて他のコミュニティにアクセスしてもらうことで、世界中の各コミュニティの持つローカルな情報を入手することができます。実際、別の地域からLAに来られる際にUJAを通じて私に連絡してくれた方もいます。UJA運営メンバー(各コミュニティのリーダーが兼任)は、月一回ウェブ会議で活動について話し合っており、JSPSやJST、AMEDなど行政とも協力して活動しています。また、情報提供としては、海外で研究活動を行う日本人研究者を対象に研究留学に関するアンケート調査も行っています。2019年の調査(集計中)では、有効回答数を600ほど集めました(前回(2013年)結果ダイジェストはこちら )。ほかにも、キャリアデベロップメント支援のために、研究者の海外でのキャリア構築について情報収集して発信しようとしているところです。また、留学へのハードルを下げてもらおうと、留学経験者の生の声を沢山載せており、それを元にした「研究留学のすゝめ!」(羊土社) という本も2017年に出版しています。オフラインでも、学会で「留学のススメ」というイベントをやっていて、日本生化学会大会では毎年開催し、現在海外にいる学生を呼んでスピーチをしてもらったりネットワーキングしたりしています。さらに、UJAアワードという賞も創設しました。インディアナ大学の研究者が発起人となり、ノーベル賞研究者の根岸先生にもご協力いただいて、初回は7名にアワードを授賞しました。そもそも日本に賞自体が少ない、賞を取るべきと言う意識を持つ研究者が少ないなど理由は色々ありますが、日本人の研究者は賞への意識が弱いと思います。アカデミアに進むアメリカの研究者たちは、キャリアデベロップメントの一環としてアワードを多数もらい、自分のCVを磨いて価値を高める意識と、またそのために活動する意識がとても強いです。良い意味で、自分を高く見せることがアメリカでサバイブしていくためには大事です。日本の皆さんに伝えたいのは、日本でも世界の学会でもアワードにはどんどんチャレンジすべきだということです。日本人は受賞時に少し照れるところがあり、賞を取ることに対して、恥ずかしさがあるのかもしれません。でも、それでは世界では勝てません。例えば他のアジアの国の人はもっと貪欲で、そういう人達と戦ってサバイブしていくには、もっとアグレッシブになる必要があります。自分は賞をもらって当たり前のことをやったんだ、と堂々としていれば良いのです。ちなみにインディアナでのUJAアワードは、研究者のみならずインディアナ日本人会もバックアップしてくれているようです。アカデミックのみならず、地域コミュニティと一緒にやっていることで、大きい活動になっているんだと思います。まずはアメリカ中西部から始まっていますが、今後はアメリカ全土、世界中で行っていきたいと思っています。資金集めが大変なんですけどね(笑)。


——SCJSFの活動も、地域の人たちに開いたら興味がある人はいるんじゃないかなと思います。

北郷:それは思いますね、今後の課題かもしれません。特にLAには日系人や日本人は多いですし、いろんな団体があるので、他団体とも交わるきっかけがあればぜひ一緒に活動したいとは思います。


——日系人や日本人もたくさんいますが、中国人、韓国人たちの国のネットワークは強固だと感じます。

北郷:彼らのネットワークのすごいのは、情報が瞬時に手に入る情報網が構築されている点です。聞くところによると、例えば中国は大学ごとのコミュニティがあり、家やら保険やらあらゆる生活情報がまとめて得られるようになっているようです。日本の行政には日本人のアクセスできる情報網を構築していただきたいと思いますし、我々もその一端を担いたいと思っています。やはり情報は、1番大事です。


——家とか生活コストに関する生の情報って日本からアクセスしづらいですよね。

北郷:アメリカ西海岸に来ると皆さん生活コストの大きさに驚きますからね。


——そのためには情報がアップデートされ続けることも大事ですよね。

北郷:それは大事です。10年前、下手すれば5年前とも留学環境は変わっていて、特にアメリカはトランプ政権(執筆当時)に変わってビザ発行が厳しくなっています。そういったここ1、2年の情報はアップデートされるべきだと思います。


——北郷さん自身は、今後のキャリアはどのようにお考えですか?

北郷:現在はUCLAでFaculty(教員)として働いていますが、今後の私のキャリアは、不透明ではなく、自由に色をつけられるように、「透明」です。研究で社会の発展に貢献したいのはもちろんですが、加えて、教育の観点からも科学技術向上に貢献したいと思っています。特に自分の専門である、PhD教育と医師歯科医師の研修医教育をやりたいです。日本とアメリカとではPhD教育、研修医教育が全く異なっているので、アメリカの良い部分を日本で広めたいと思っています。アメリカのシステムが100%良いとは思っていませんが、日本へのヒントはたくさん転がっていて、このヒントを拾い上げていけば10〜20年後の日本のサイエンス教育、医療教育が変えられると思います。教育の結果はすぐには出ませんが、国の根幹を支えるのもまた教育だと思います。目先の新しい科学技術を生み出すのももちろん大切ですが、10年以上先の科学技術を考えると教育はとても大事です。今の日本の教育が悪いわけではないのですが、世界はとてもドラマティカルに動いていて、日本もその波にうまく乗りながらトップランナーとして勝ち残っていく必要があります。そのためにもベーシックな教育は少しテコ入れした方が良いと思っているので、仕事に加えて、個人的なライフワークとしてこういった社会貢献の活動にコミットしたいと考えています。


——教育が大事だと思ったのはLAに来られてからですか?

北郷:はい、アメリカに来て気づいたことです。世界中からいろんなバックグラウンドの人たちが来ていて、彼らのサバイバル方法を見ていると、日本人に足りないものに気づきますし、自分自身にも足りないものがあると危機感を感じました。実はアメリカに来て数年後に、教員になるチャンスがありました。しかしその採用過程で、ある人から「日本で取ったPhD資格では教員にはなれないよ」と言われ、本当に悔しい思いをしました。日本で頑張ってPhDを取って自信を持ってこちらに来たのに、なぜそんな風に言われなくてはならないのか、と。この屈辱は、日本のこれからの若い研究者には味わってほしくない。でも日本のPhDの価値は世界ではこのように見られているということです。決して日本を批判しているわけではなくて、こういった実情を日本の行政や大学が受け止め、今後どうしていくべきかを考えて、日本のPhDの価値を上げていくことがゴールだと思います。ただ、現時点でPhDを取ろうとしている学生は数十年後のそのゴールは待てません。だから彼らには、アメリカでPhD取得をすることを泣く泣く勧めています。しかしやはり長期的には、国や各大学が教育改革を行う必要があると考えています。20〜30年後に世界で通用するPhDの質になるように、その時の若者が日本でPhDを取って良かったと思えるように、今から動かなければならないと思っています。


——アメリカのPhD課程はどのようなものなのでしょうか?

北郷:一言でいうとアメリカのPhD課程は「一人前の研究者」を育てるプログラムです。その「一人前」の定義は、(1)自分で研究費を獲る、(2)自分で研究をデザインして論文も書く、(3)これらの活動を全て自分でできて、かつ研究室のマネジメントもできる、ということです。そのような「一人前の研究者」を育成するための教育が綿密に計画されていて、授業も沢山あるし論文や研究プロポーザルも書くし、やることがとても多くて非常に大変です。しかも行政が数年ごとにPhDプログラムを持つ学部を査察しています。カリキュラムのチェックや現役PhD学生へのインタビューなどを通じてプログラムの質をチェックし、不合格のプログラムは認可を取り消すというシステムなので、大学側も必死です。ですが、この評価システムによってアメリカのPhDプログラムの質は担保されています。他方、日本のPhD課程では、師弟関係が未だ根付いていて、PhD学生は基本的に教授がデザインした研究に従事して、教授の指示のまま研究をしています。自分の経験談であり、現在は少し変わっているかもしれませんが。
また、医師歯科医師の研修医プログラムも、日本では「俺の背中を見て学べ」という職人文化で、自分の指導医の診療や手術を背中から見て覚えていきます。一方、アメリカでは、多様な考え方や宗教がある中でも成り立つように枠組みができています。逆に言えば、「これさえやれば良い(それ以上もそれ以下のこともしない)」と言う枠組みが決まってないと成り立たないのです。特に医療は変な治療をされたら困るので、この病気にはこの治療、と全て決まっています。だから、どこの国の人でも研修医プログラムを卒業すれば、現在のスタンダード医療が身に付くようになっているんです。例えばアメリカでは医療訴訟が頻繁に起きますが、裁判では、治療が下手だったときではなく、スタンダードでない医療行為をした時に敗訴します。良かれと思ってスタンダード以外の治療をすると負けてしまうんです(治験等は除き、一般的な治療行為において。なお新しい治療法を試すための機会は別途あります)。逆に言うと、日本ではある意味、素晴らしい指導医につけばとんでもない職人が生まれることもあります。なので、実は日本の方が天才外科医、ゴッドハンドは多いんです。そのかわり全くダメな医者もいます。アメリカにはその二種類はほとんどいません。


——一人前になるための「型」が決まっているのですね。

北郷:アメリカの初等・中等教育は非常に自由度が高くて、アート、演劇、サイエンスなど、いろんな分野に特化した小・中学校があります。好きな分野、得意な分野を伸ばし、個々人それぞれが能力を高めるための機会を与えているんです。そして高等教育、つまりPhD教育や医師歯科医師の研修になって、スタンダードな枠組みを教えるんです。PhDの1、2年目でその分野の基礎知識や倫理、研究室マネジメントや予算の取り方の実務などのスタンダードなことを学び、その後の自分の研究は学生の頑張り次第。もちろんプログラムによって多少異なりますが、おおよそこんなイメージです。日本では、研究者はとにかく師匠(教授、指導教官)の背中を見て育ちます。もちろん、その師弟制度によって日本は世界のトップレベルの科学技術国になっているので完全否定はしません。ただ、アメリカのやり方にはたくさんのヒントがあると思いませんか?僕はそう思うんですよね。
日本でいきなり何かに特化した小中学校を作るのは無理かもしれないけど、特化コースを増やしたり授業割合を少しずつ変えたりと、色々やり方はあるんじゃないかと思います。現実問題として日本全体で子どもが減っているので難しい、という問題もありますし、いきなりドラスティックに変える必要はないと思いますが、もう少しアメリカのようなやり方を取り入れてもいいかなとは思うんです。幼い頃から各自の個性を伸ばす教育があるからこそ、アメリカには、何かの分野に突出した人が生まれやすいのかなと思います。


——熱い想いをお聞かせいただきありがとうございました!



<あとがき> ご活動の話から研究者教育、初等中等教育まで非常に想いのこもった話をお聞かせいただきました。教育が違うとここまで考え方や行動の仕方が違うのか、と感じることが私も多々あるので、共感することしきりでした。最後にあった、小中学校で個性を大事にし、高等教育になって(プロフェッショナルとして必要な)枠を身につけさせるという考え方は、日本でも取り入れられるといいなと思います。個性を大事にしようと呼びかけるだけではなく、仕組みから個性を大事にする教育にアメリカはなっている。そう感じました。
(文責:吉野彩 @yoshinoayap
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