講演者インタビュー



「留学は自分を成長させてくれる」
歯科医師として痛みの研究に取り組む山本さん

2019/9/23





山本 徹(Toru Yamamoto, DDS, PhD)

UCLA School of Dentistry, Neuropharmacology

略歴:略歴:2008年歯科医師免許取得。2013年九州歯科大学大学院歯学研究科歯科侵襲制御学専攻博士課程を修了し(歯学博士)、鶴見大学歯科麻酔学講座助教、東京医科歯科大学麻酔生体管理学分野医員を経て、2017年4月よりUCLAにて博士研究員として神経障害性疼痛および頭痛の発症メカニズム解明と治療法開発に向けた基礎医学研究に従事している。日本歯科麻酔学会認定医・専門医、日本口膣顔面痛学会認定医。第46回日本歯科麻酔学会最優秀発表賞受賞。AHA ACLS、PALS、BLS(アメリカ心臓協会認定心肺蘇生法)プロバイダー。



——留学をしようと思ったきっかけは何かありますか?

山本(敬称略):慢性的な痛み、特に神経が傷ついて起こる痺れや痛みについては、残念ながら有効な治療法がないというのが現状です。そういった痛みに悩む患者さんのために有効な治療法があればと思ったのが研究をしようと思ったきっかけです。当時、私の職位では、大学病院での臨床(患者さんの診療)に時間を取られてしまうということもあり、海外に視野を向けようと思い留学することに決めました。
 その際、やはり英語が世界の主要言語ですし、アメリカはいろんな研究分野で最先端を走っている国のひとつなので、新しい研究をしたいとなると必然的にアメリカかな、とは思っていました。また、日本では個人個人で細分化されたテーマをもって研究していくスタイルが主流ですが、アメリカでは大きな研究テーマを掲げるボスの下にいろんな研究者が集まり、各自が自分の得意分野を生かしながら大きな目標に向かっていくという印象があります。さらに、予算獲得の観点でも、たとえばアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の出す研究費は、研究期間が長く設定されており金額も大きいものが多いです。こういった背景により、高い視座から研究したい研究者にはアメリカを目指す人が多いのだと思います。私はアメリカ以外の国も当初見ていましたが、自分のやりたい研究ができる今の研究室のボスが自分の研究内容と業績を評価してくれ、いろんなご縁があって、今の研究室に来ることになりました。


——歯学部・医学部などの医師の方の研究留学についてもう少し詳しく教えてください。

山本:歯科医師の留学は大きく2種類に分かれていて、患者さんの診療をメインに行い専門医プログラムを修める臨床留学と、基礎研究を行う研究留学があります。日本での所属大学が提携している病院や、所属大学の教授やボスの知り合いの研究室など、人的つながりのあるところに行くことが多いです。そのため、所属大学に籍を置いたまま一時的に渡航する研究者が多いのです。私は研究留学をしていますが、私のように個人で留学する場合は、留学先を自分で探す必要があります。留学先を見つけるには、まず自分の研究分野に関する論文を探し、候補となりそうな研究室を見つけ出して履歴書を送るのですが、もちろん返事がないこともよくあります。そんな中、現在の研究室がポスドク募集していたのをたまたまネットで見つけて履歴書を送ったところ、私の研究内容と博士論文に興味を持ってもらえて、一度会って話をしようということになったんです。それでアメリカを訪れるつもりだったのですが、幸運なことに、ボスが日本で開催される学会にちょうど参加するということで、その際に会って話し、一気に話が進みました。さらに、留学にあたっての資金面については、自分で予算を工面しなければならない場合と研究室が給料を出してくれる場合とがあるのですが、ボスが私の業績と研究手法を評価してくれ、給料を出してくれることになったんです。いろんな意味で風向きが良い方向に進んだと思います。
 渡航する際の職位が教職員の場合、大学に籍を置いて留学するため1年で帰国することがほとんどなのですが、私の場合は教職員ではなく個人で来ているので、滞在年数は決まっていません。最終的には日本の歯学部の教職員になりたいと思っていますが、こちらでの研究をある程度は形に残してから帰るつもりです。アメリカでは、新しい研究手法を学べるだけではなく、いろんな国の人とも会えるので、多様な人と行った研究の経験は学生への教育の場面でも役立つのではないかと思っています。


——博士を取られた九州では、留学する歯科医師の方はどれくらいいましたか?

山本:私の周りには、海外を希望する人はほとんどいませんでした。やはり、歯科医師として診療業務をしていれば、収入面でも社会的ステータス面でも特に不満はないのだと思います。私の場合は、患者さんをこのまま診ていても問題が本質的に改善されない状態が続くのであれば、研究して何かが変わる可能性がある方に賭けてみようと思ったんです。自分の用いている研究手法自体は昔からあるものですが、その手法でもっとできることがないか、また、他の手法を学び、自分が持っていなかった考え方や技術を得られないか、と思いアメリカに来ました。留学生活が無駄にならないよう、アメリカで得たものを生かしていきたいと思っています。


——これまでは臨床もされていたわけですが、臨床と研究と、どのようにバランスを取っていらっしゃるのでしょうか?

山本:患者を診るのも学生に教えるのも、どちらも好きなんです。臨床時に感じた患者に対する思いも、研究に対する原動力になっていると思います。でも自分の専門である歯科麻酔を用いて患者を診ようと思うと、一般開業医ではなく大学病院で診療することになります。他方、大学病院に残ろうと思うと、必然的に研究業績が求められます。
 日本では、大学病院の医学部・歯学部の医師の多くは、研究のみならず臨床も行います。研究業績が人事評価につながるのですが、歯学部に所属して十分な研究時間をとれるのは、元々研究や教育が業務である大学の教職員くらいです。そのため、まだ教員になってない医師たちは、(臨床も行うため)十分に研究時間をとれず研究業績を作るのが難しい、でも研究業績がないと人事評価につながらず教員になれないという「にわとりと卵」の状態になってしまっているんです。教職員になるには、研究業績と人的コネクション、また、教員の空きポストが出るタイミングなどの運も必要ですが、まずは研究業績がないとお話になりません。今は大体どこの大学も、3〜5年くらいの任期中に論文を何本出したかといったミニマムリクワイアメントをクリアすることで契約更新されるようになっているので、教員として生きていくためには研究ができなければならず、海外に出て研究業績を出し、帰国して教員になろうと思いました。


——アメリカでの仕事の進め方について教えてください。

山本:アメリカは結果主義なので、仕事の進め方自体は問われません。結果が全てなのである意味厳しいとは思いますが、朝早く出勤するなどの働き方の拘束はないので、自分の生活スタイルによって働き方を自由に選べるという意味では合理的だと思います。そういう意味では、日本もアメリカも、どちらの働き方も良い面があると思うのですが、これは体験してみないとわからないですよね。経験して初めてわかることだと思います。


——研究で思うような結果がなかなか出せない・・・というときもありますよね。そういう場合はどうするのでしょうか?

山本:結果が出ないときももちろんあります。自分たちの持っている技術や知識には当然限界がありますから。そのような場合、アメリカでは、必要な技術や知識を持っている研究室を探してコラボレーションすることがごく普通に行われています。コラボする場合は研究費をどちらがどれだけ出すかを決めなくてはなりませんが、例えばアメリカには、共同研究することになった場合には研究室間で分け合える研究費も存在しています。自分の出来る範囲で出せる業績を出していくのが日本の研究環境で、「ひとつの研究室でやるには限界がある」という前提に立ち、足りないところをみんなで補い協力して成果を出していくという考え方をするのがアメリカの研究環境かなと思います。歯学部の環境しかわかりませんが、日本よりもアメリカの方が研究室間の垣根は低いように感じますね。


——アメリカに来て良かったと思う点はほかにありますか?

山本:もちろん研究面でいうと、新しい技術や知識を得られていますが、それだけでなく、自分自身の人間としての成長にもつながっていると感じます。今まで海外は旅行でしか行ったことがなかったのですが、長期滞在は旅行とは全く違いました。生活の立ち上げに苦労した経験も自分にとってはプラスになっていると思います。私の場合は33歳で海外留学という形になりましたが、どうしても、年齢とともに新しいことにチャレンジするハードルが上がったり、新しい環境に適応するのに時間がかかったりするので、海外留学するなら早いに越したことはないと思います。日本に一生住もうと思えば何の不自由もなく過ごせるとは思いますが、やはり一度日本の外に出ていろんな面で苦労してみるというのも、きっと無駄にならないと感じています。
 やりたいことが海外にあるのであれば、臆さず日本を飛び出すと良いと思います。日本から出てみることで日本に対する見方も変わるし、世界が日本をどう見ているかが分かって、日本の素晴らしさにも気づくようになります。私も日本を離れてみて初めて、日本がいかに素晴らしい国かが分かりました。


——渡米までにハードルだと感じていた点はありますか?

山本:英会話ですね。でも、留学前に英会話スクールにも通いましたが、来てみたらあんまりいらなかったなと思いました。現地に来て慣れるのが一番です。英語をマスターしてから行こうと思うのではなく、まずは来てみる、経験してみる。相手も人間なので、意思疎通はなんとかなりますよ。また、資金についても、こちらの学生はルームシェアなどしながらなるべくお金をかけずにどうやってでも生活しています。あれこれ考えずに、来てみれば何とかなりますよ!




<あとがき> 患者さんの痛みを根本的に解消したいという熱い思いを持つ山本さん。誰しも、治療は痛くない方がいいと思うのではないでしょうか(もちろん筆者もそう思います)。周りにあまり留学者がいないという環境で、しかもご自身で研究先を探されるというのは大変だったのではないかと想像します。山本さんに続き留学される歯科医師の方が増えることを願ってやみません!
(文責:吉野彩 @yoshinoayap
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