講演者インタビュー




「自分で描けば、道は開ける」
人間のシミュレーションによって自ら動くアニメーション技術を開発する仲田さん

2018/11/22


映画、ゲーム、VRといった分野でのアニメーションのリアリティは年々向上している。しかし現時点では、キャラクターの動作を人が設定して実行する作業が必要であり、膨大な時間とコストがかかっている。この問題を解決するために、仲田さんは、人間を内面からシミュレーションし、AIを用いて、キャラクター自身が物事を感じ、考え、行動するアニメーション技術の開発に取り組んでいる。



仲田 真輝(Masaki Nakada)

UCLA コンピュータサイエンス
コンピュータグラフィックス・ビジョン研究所

略歴:2011年早稲田大学物理学及応用物理学専攻修士課程を卒業後、株式会社インテルに入社、数ヶ月で退社し渡米後、UCLAコンピュータサイエンス博士課程で人間をシミュレーションする研究に従事する。現在UCLAでポスドク研究員をする傍らスタートアップ事業も運営中。



——現在は研究をされながらスタートアップ運営中とのことですが、元々起業したい思いがあったのでしょうか?

仲田(敬称略):高校生の頃から起業したいと思っていました。人生一度きりなので、自分で何かを成し遂げたい、と。理系科目が好きだったので大学は理系に進み、経営については自分で勉強していたところ、大学2年生の頃にちょうど起業する先輩がいたので、設立メンバーとして参画して法人を立ち上げました。でも、自分の本当にやりたいことではなかったので、あまり面白さを感じられなくて。そこで、自分が何のために起業したいかが大事だということに気づきました。また、社会を変えるようなことをやるには、高度な技術や専門性を身につけて事業を行う必要があるとも思ったんです。それで先輩の法人は抜けさせてもらいました。修士卒業後に入社したインテルも良い会社だったのですが、大企業の研究開発には莫大なお金と多くの人材が割かれていて、そこで身につけた技術で自ら起業しても大企業には勝てないなと思って。大企業に負けない技術を身につけるにはやはりPhDが必要だと思い、博士課程に進みました。


——留学先はどうやって探されたのですか?

仲田:今所属しているUCLAの教授は、アカデミー技術功労賞を取るようなCG界の世界的権威なのですが、通っていた早稲田大学の教授の知り合いだったので、紹介してもらって修士の時に1年弱UCLAで勉強していたんです。ただ、1年間では全然学び足りなくて、また戻ってきたいと思っていましたし、起業するなら世界中から人が集まるカリフォルニアに行きたいと思っていたので、今の教授のもとに再度来ることに決めました。また、留学資金繰りの観点でも、アメリカはTA(Teaching Assistant)やRA(Research Assistant)をすることで、PhDを取得しながら給与をもらえるというメリットもありました。


——修士の時に一度来られていたのですね。元々海外に興味があったのですか?

仲田:高校生のときから、予想通りの人生ではなく自分で人生を創りたいという思いがあって。ひねくれ精神というか(笑)。そのために、日本とは違う海外の価値観を知りたいと思っていました。それで昔バックパッカーをしていて、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアに行ったんですが、その地に行って初めて、それぞれの価値観や常識を理解することができたんですよね。それで、もっと価値観を広げて人として成長したいと思い、海外に住もうと決めました。学部では奨学金を受けていて、留年の可能性があるため留学は禁止されていたので、修士でやっと留学を実現できました。 昔は日本国内だけにいても良かったと思うのですが、これからは経済も研究も日本国内だけで完結する時代ではない。そんな中で、海外の人の考え方を知らないままというのはリスクだと思うんです。海外の環境を知った上で日本に戻るのは良いと思いますけどね。


——その地に行って初めて分かることはたくさんありますよね。今は研究しながらご自身の事業も運営されているとのこと。起業するにあたり一番大変だったことは何ですか?

仲田: 起業については、まだ成功していると思っていないので偉そうなことは言えないのですが、研究と起業の両立で一番難しいのは、タイムマネジメントです。1日8時間、週5日は大学の研究にコミットしないといけない。それ以外の時間で自分の事業に取り組む必要があって、疲れていても自分を鼓舞しなくてはなりません。それに正直な話、年々体力はなくなってきます(笑)。体力的にも時間的にも両立させるのが難しいですね。それでも、本当にやりたいことには時間を割けるので、今はうまくバランスを取れています。ただ、ワークライフバランスに重きを置く人にこのやり方は向かないと思いますので、全員にお勧めはできません。そして、ビジネスとして成り立つからという理由だけで起業すると精神的に持たなくなるので、本当にやりがいや楽しみを感じられるかどうか、また、忙しい生活を楽しめるかどうか、起業前に自問自答することが大事だと思います。今後は、コアな研究開発は大学に頼らず自分でやりながら、さらにビジネスにコミットしたいと考えています。コミット量を増やさずに成功するほど起業は甘くはないと感じていますので。


——現在の研究について、エンタメ産業以外でも活用できると思うのですが、今後の方向性の展望はありますか?

仲田:人体のシミュレーションの研究は例えば医療などにも活かせると思うのですが、人命が関わることは、技術が100%安心と言えないと、実用化までこぎつけるのが難しいんです。なので、まずはエンタメ業界で成果を出して、いろんな産業に応用してサービス展開していきたいと思っています。AIに仕事が奪われるとよく言いますが、AIには人間がやりたくないことをやってもらえば良いと思うんです。人間は人間にしかできないクリエイティブなことをやって、それ以外の単純労働はAIに任せる。それが人とAIの今後の共存の姿かなと思っています。


——日本の高校でも多数講演されているようなのですが、まだ自分のやりたいことが分からないという高校生は、どうしたら良いでしょうか?

仲田:高校生までの15年間の経験というのはすごく限られているので、まだ結論が出なくて当たり前なんです。でも、本当に好きなことが分からなくても、興味があることを見つけて本気で動いてみると、見えてくることがあると思います。若いうちは時間があるのが最大のメリットなので、頭の中だけで悶々と悩み続けるのではなく、やりたいことを一つずつやってみること。また、やりたいことや自分の価値観、美徳などは、5年、10年と時間が経てば間違いなく変わっていきます。だから、遠い将来の理想について今答えが出なくても、それは悪いことではないよと伝えたいです。
僕も高校生のときは将来について悩んでいましたが、その時に大人からもらったアドバイスはとても為になりましたし、奨学金もいただいてきていて、上の世代の人たちに本当に助けてもらいました。こういった上の世代にかけてもらった恩を下の世代に還元して、恩を循環させていきたいなと思っています。そういう思いもあり、日本の高校から講演依頼をいただいたときは、時間が許す限りお受けしています。


——最後に、日本の高校生や大学生たちに一番伝えたいことは何ですか?

仲田:まず日本人であることは、すごく幸運なことです。職業や住む場所を選べるのは裕福な国に生まれたからこそで、世界には選べない人たちもいる。日本には返済不要の奨学金もあって、自分で探せばチャンスをつかめるんです。だから、お金が足りないから、英語が喋れないからできないと思うんじゃなくて、努力すればできる土壌があるということを一番伝えたいです。僕自身、経済的にも豊かではなかったし、英語もできなかった。でも今、PhDを取得して海外で生活している。これは自分で描いてきた理想なんです。自分の道は、自分で描けば、開けていきます。


——とても素敵なお言葉をありがとうございます!



<あとがき> 自分で描けば、道は開ける。自分のやりたいことに向かって道を切り開いてきた仲田さんだからこそ言える、重みのあるお言葉だと思います。仲田さんの開発した、自分で動くキャラクターが映画に登場するのが今から楽しみです!
(文責:吉野彩 @yoshinoayap
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