講演者インタビュー



日本の科学技術再興のために

2018/11/22


科学技術イノベーションは世界を変える。
一世代前は携帯電話もなかったのに、今では「空飛ぶタクシー」も現実味を帯びる世界になってきている。科学技術立国として世界各国から認められた日本製品クオリティは今も健在だ。しかし、財政的制約や人材流動性・多様性の不足など、日本の科学技術は様々な課題に直面しており、政府の中でも問題意識が高まっている。今回のインタビューでは、海外留学への想いや研究者の海外進出事情などについてお話いただいた。


近江 麻美(Asami Chikae)

文部科学省 平成29年度派遣長期在外研究員(UCLA公共政策学)

略歴:1987年石川県生まれ。2008年石川工業高等専門学校 電子情報工学科、2010年大阪大学 基礎工学部 電子物理科学科卒。卒業後、文部科学省に入省し、基礎研究や材料・ナノテク研究の振興などに携わる。2016年内閣府科学技術部局に出向後、2017年より現職。趣味はテニス、スキューバダイビング、異文化交流。



——まず、近江さんご自身が海外に興味を持ったきっかけを教えてください。

近江(敬称略):私が海外に行きたいと思ったきっかけは、通っていた高専に来ていた留学生の考え方が、日本人とは違って面白いなと感じたことです。そして初めての海外経験は、高専時代に行ったニュージーランドでの2週間の縦断旅です。当時はバイトを3つ掛け持ちして、旅のために貯金するのに苦労しましたが、今は官民協働で実施する「トビタテ!留学JAPAN」という奨学金制度があります。寄付してくださっている理解ある民間企業の皆さんのおかげで返済不要ですし、ぜひ意欲と能力のある学生のみなさんに活用してほしいです。海外の環境に触れると、英語力や度胸もつきますし、視野も広がると思います。私も今回留学に来てから視野が広がり、留学前と現在では全く考え方が変わりました。


——トビタテ!留学JAPANは利用者数も増えていて順調ですね!留学生がさらに増えるには、何が必要でしょうか?

近江:ひとりでも多くの人が留学に興味を持つきっかけに出会うことが必要だと思います。そのためには、留学経験者が、海外の良さをもっと多くの人に伝えていくのが近道だと思っています。トビタテ!留学JAPAN事業でも、留学経験者に自分のやってきた活動を普及してもらう取組みを行っています。トビタテでの留学経験者同士でも交流があるようなので、この輪が広まればいいなと思います。


——多くの人が留学に興味を持つきっかけ作りは重要ですね。他方で、日本の大学が今後も世界で生き残るには何が必要でしょうか?

近江:アメリカの大学は寄附金を集めて運用するのに長けていますが、日本の大学も外部からの資金確保手段を模索する必要があると思います。例えば、ハーバード大学の基金は約3.5兆円を超えます(注:2008年時点)が、この基金は、寄付金集めの専門チームが集めた寄付金を元に、マネジメント会社に運用を委託するなどして高い運用実績を上げています。また、自分たちのリソースをベンチャーに貸し出して、そのベンチャーが上場した際の株式を取得し株式運用益を得るといった取組によって、ここまで大きくすることに成功したという経緯があります。
日本でも、今年度(2018年度)税制改正がなされ、個人が評価性資産(土地、建物、株等)を国立大学法人等へ寄附した際の非課税要件が緩和されるようになります。この税制改正によって現金だけでなく評価性資産を大学等に寄附するインセンティブが増加し、大学の外部資金獲得の幅が広がることを期待しています。(詳細はこちら:譲渡所得等の非課税の特例(国税庁)


——新たな制度がうまく活用されることを期待したいですね。最後に、研究者の皆さんに伝えたいことは何かありますか?

近江:海外経験をどんどん積んで、新たなことに挑戦するマインドを育んで欲しいと思っています。ロサンゼルスで日本学術振興会(JSPS)の海外特別研究員の方にたくさん出会っていますが、ポスドクで海外に出た特別研究員のうち、90%以上が特別研究員終了後の5年後には「常勤の研究者」として職を得ているというデータがあります。そしてこういった優秀な研究者の皆さんに、ぜひ日本に帰ってきて欲しいです。文科省では、「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」(2007年〜)で日本の大学などに補助金を出して、海外の研究者が日本に来たくなるような設備や環境を整えてもらう取組などを行っています。そうして日本に来てくれた海外の研究者等との論文の共著を増やし、世界での日本のプレゼンスを高めていくことが、日本における研究環境を良くするためには大事だと思っています。



また、自分も行政官として、大学が困っていることを現場できちんと聞いて、政策に反映していきたいと思っています。ロサンゼルスにいる間も、いろんな人に話を聞いていきます。そういう意味でも、このSCJSFの取組は、研究員の方も含めていろんな人とつながることができ、とても有り難いです。


——ありがとうございます!海外経験を積んだ皆さんに日本を支えて欲しいですね。

近江:海外に出ることは、日本を改めて見つめ直し、良いところも悪いところも気づけるきっかけになります。日本にはたくさん課題もありますが、ものづくりの力はまだ健在ですし、iPS細胞の山中先生など、イノベーションを起こすスターはたくさんいます。海外に出た日本人の皆さんには、日本の良さを伝えるアンバサダーとして力を発揮してくれることを期待しています。


——留学生はひとりひとりが日本のアンバサダーですね!ありがとうございました!



<あとがき> 私も留学して初めて日本人以外の価値観に深く触れ、多様な考え方のどれが正解ということはないということを学びました。この多様性を理解することが、これからの社会で必要な科学技術の価値を生み出すにあたって、大事なのではないかと思います。日本の未来を担う研究者の皆さんをこれからも応援していきたいと思います!
(文責:吉野彩 @yoshinoayap
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