第58回フォーラム
「数と音楽、医療政策」


日時:2019年9月7日(土)
    2:30PM講演会開始
    6:00PM講演会終了
会場:UCLA Anderson School of Management, Room C301




講演1
「数と音楽のハーモニー」
日比美和子
フリーランスライター


要旨:音楽と数学は、古代ギリシャ時代から深く関わっている。たとえばピュタゴラスは弦を張った装置を用い、弦の長さとそれを弾いて出る音との間に数的な関係を見つけた。最近では、20世紀後半に北米の音楽理論家たちが生み出した音楽理論には、数学の集合論を応用した例が見られる。19世紀末から20世紀初頭に、無調音楽という調性のない音楽が生まれた。無調音楽はそれ以前の調性音楽の分析理論では分析できないことから、新しい理論の開発が期待された。そこで生み出されたのが様々なポスト調性理論である。ポスト調性理論の代表的な理論であるピッチクラス集合論や変換理論は、数学の集合論を応用し、音を数字に変換し、数字の組み合わせによって音楽を分析する。その利点は、作品が持つ様々なコンテクストを考慮に入れることよりも、音程そのものに内在する意味の解読に重きを置くことにより、伝統的な音楽分析の慣習に捉われない方法で作品の構造を明らかにできることである。今回の発表では、数学と音楽の関係性の例として、ポスト調性理論の特徴を紹介した後、その問題点を論じ、問題を克服するための新しい試みについてお話したい。

ご略歴:東京藝術大学大学院在学中に、日本学術振興会の支援を得てニューヨークのコロンビア大学大学院にて音楽理論を学ぶ。2013年、東京藝術大学大学院音楽研究科博士後期課程修了。博士(音楽学)。2015 年渡米。NY、LA、SFを経て現在アーバイン在住。私立学校で講師を務める傍ら、曲目解説や CDライナーノーツの執筆、米国の主要都市でクラシック音楽のレクチャーを行う。共著『ハーモニー探求の歴史―思想としての和声理論』音楽之友社より出版(2019年)。

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講演2
「医療政策学・医療経済学の視点から日本の医療費の問題を考える」
津川友介
UCLA医学部内科、公衆衛生大学院 助教授


要旨:テレビや新聞では連日のように日本の社会保障費が高騰していることが報道されている。日本は世界でも類をみない超高齢化社会に突入しており、2025年にはオリンピック景気も終わり、団塊の世代(1947~49年生まれの人達)全員が後期高齢者になり、医療費・介護費の増加し、国家財政的に厳しくなってくると予想される。この問題を解決するカギの一つが「医療費」であり、医療費問題を解決することなく財政健全化を達成することは不可能であると言っても過言ではないだろう。日本での報道を見ていると、無駄に危機感を煽るものが多く、具体的な解決策に乏しい。消費増税や保険料の引き上げなどの「財源論」は、医療費増に対する“対症療法”であり“根治療法”ではないにも関わらず、日本ではしばしば財源論のみが議論されている。医療政策学・医療経済学のエビデンスを元に、医療費の問題に関して多くの人が持っている誤解を解くとともに、日本の医療費問題の現状およびその具体的な解決策のいくつかのオプションに関して説明する。

ご略歴: 聖路加国際病院で内科医として勤務後、世界銀行、ハーバード公衆衛生大学院での勤務を経て、現職。ハーバード公衆衛生大学院にて修士号(MPH)、ハーバード大学(Graduate School of Arts and Sciences)にて博士号(PhD)を取得。著書に、週刊ダイヤモンドベスト経済書第1位の「原因と結果の経済学」(ダイヤモンド社、中室牧子氏と共著)、10万部突破のベストセラー「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」(東洋経済新報社)。ブログ「医療政策学×医療経済学」で最新のエビデンスを発信中。専門は医療政策学、医療経済学。ツイッター: @yusuke_tsugawa